今年の夏はカナブンが多いと聞く。
大成さんがある日家に帰ると、玄関ドアの隙間にびっしり、カナブンがたかっていた。
思わずその場で飛び跳ねた。
(蜂蜜でも塗られたのか?)
気色の悪い光景に誰かの悪戯を疑った。
蟲は部屋に入り込もうとするかのように、ひっきりなしに蠢いていた。
怖気を抑えながら眺めていると、蟲に意思があるように見えてきたという。
ふと大成さんは思い出した。
その日は死んだ女友達の命日だった。
縊死した女の名は奇しくもカナだったという。
「まるでね、家の前で私のことを待ってたみたいな感じで……もう遅いわよぉって感じに見えてきて」
カナブンの群れを払い落とすことができなくなってしまったという。
「だから……ねぇ引かないでよ、だってどうしようもないじゃない」
大成さんはカナブンを一匹ずつビニール袋に摘み入れ、蠢く袋を手にしたまま公園に向かった。
そこの公園は件の友人と長話をよくした場所だった。
「ベンチに座って、カナブン袋を横に置いて 、朝まで一緒にいたわよ。なんとなくそうした方がいいかなぁって思って。どうせ次の日休みだったし」
朝日が昇ると同時にビニール袋を開け、高台から投げ放ったという。
カナブンたちは全て死んでいたのかぼとぼとと落ちていった。
袋に入れていたとはいえ短時間で息絶えるとは思っていなかったので大成さんは驚いた。
「あぁそっか、って納得したの。やっぱり彼女が蟲たちを動かしていたんだなって。のりうつって、私のところに来たんだなって理解したの。たぶんね……謝りにきたのよ。あの子、私に黙って、携帯変えたりしてたから。偏差値低い学校に行ったから、たぶんそれを私に引け目に感じてたのね。可哀相に」
死ぬ前に相談くらいしてくれれば良かったのに。
大成さんは残念そうに、そう言った。
ともかくそれ以来、大成さんはカナブンだけは殺傷しないことに決めているという。
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カナ ブンブン
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